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髙村貴子 Special Interview

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ハセツネ初参戦は2015年で3位。2016〜2018年は女子の部で3連覇を果たしている髙村貴子。スカイランニングの世界では、2016年にユース日本代表として世界選手権で準優勝するなど、世界の舞台でも結果を残している髙村が、コロナ禍でのレースへのモチベーションやハセツネに対する思いを語る。(この記事は2021年9月に掲載したものです)

自分の中からなくなった 走りたいという気持ち

昨年からのコロナ禍で、思うようにレース参戦やトレーニングが難しい状況が続いていると思います。
髙村さんはどのように過ごされていましたか?

実は昨年、勝ちたいという気持ちがなくなって、まったく走っていない時期がありました。医師という仕事に就いて2年。その忙しさが増して思うようにトレーニングができない日々が続いたり、結果を強く意識してトレイルランレース参戦やトレーニングをすることに耐えられなくなったのです」

そうだったのですね。でも、結果を意識することは
悪いことではないと思いますが。

「私がトレイルランを始めたきっかけは、大学時代に所属していたスキー部のオフトレでした。これだけきつくて、これだけ達成感のある競技があるんだというのに衝撃を受けて、純粋に山を走ることがどんどん好きになっていきました。レースについても勝てればいいなくらいで、最初から結果を意識してスタートしたことはなく、楽しんでいたら優勝がついてきた場合がほとんどでした。でも周囲から結果を期待されたり、ライバル視されたりすることを自分自身が過剰に意識していて、楽しむ気持ちより勝ちたい、勝たなければいけないという気持ちが強くなっていたのに気づいたんです。ただでさえきつい競技なのに、結果だけ、タイムだけを追い求め始めると本当にしんどくて、趣味なのになんでこんなに苦しまなければいけないのだろうって……。

それで、いったん走ることから離れてみたり、まったく違う目標を立てて進み始めたりもしましたが、自分の中に山を走る競技の中で世界一になりたいという目標や気持ちがまだあることに気づき、そこから気持ちを少しずつ戻している最中です。まだ結果を求められるのがしんどいので、今年は本当に出たいレースと選考レースにしぼって参戦するだけにとどめる予定です」

ハセツネだけは 私にとって唯一無二

そんな状況をお聞きすると、周囲からどうしても優勝(4連覇)を期待される
ハセツネの参加を考えるのはつらいですね。

「いえ、ハセツネだけは何があっても出たいと思っています。私の中で、山を走るのはあのレースのためで、もし今年の開催が実現するなら、何があっても挑みたいと考えています。台風やコロナで2年間開催がなく空いてしまいましたし、当日までにどこまで戻せるか分かりませんが、ゼロからの挑戦者として走りたいです」

ハセツネのどのあたりが他のレースと違うのですか?

「普通のトレイルランレースでは勝った、負けたという、誰かと勝負している感覚が強いのですが、あの9時間半はずっと自分と戦っている感覚。その時の自分にいかに甘えず、自分の力を出しきれるかがすべてで、まったく別物なのです。その自分への挑戦が面白く、楽しいと感じます。もちろんレース中は苦しい時間が続きますが、私の場合は苦しいより楽しい気持ちが勝ります。

初めて出た2015年は途中トップを走れました。結局は後半に抜かれ負けてしまいましたが、あの時も負けたという気持ちはなくて、フィニッシュできてすごくうれしい気持ちが勝りました。そんなふうに思えたレースは初めてで、あの日から私の中でハセツネは唯一無二のレースになりました」

両極端な自分と出会えた2018年が忘れられない

2016〜2018年の女子の部で優勝。難しいかもしれませんが、
3勝をうれしかった順に並べてみてください。

「2017年、2018年、2016年の順ですね。2017年は途中までものすごく良いペースで進み、すごく走れている感覚があったのですが、そこからこんなにつぶれるのかっていうくらいボロボロになり、両極端な自分が1レースの間に出た忘れられないレースでした。フィニッシュにたどり着けないのではと思うくらい、最後は食べられないし、お腹も下していた状態だったのにフィニッシュできたことにすごく達成感がありました。

2018年のハセツネは、卒業試験の2週間前というタイミングでした。普通なら卒業試験を通ることすら厳しいので、周りから出ることに反対されましたが、このレースだけは何があっても出たかったので、ギリギリまで勉強していました。フィニッシュ後はいつも興奮状態が続いて寝られないので、それを利用して次の日の表彰式までホテルでみっちり勉強。さすがに表彰式後は倒れそうでした(笑)。

2016年は初めて勝った年です。いつか勝ちたいと思っていたレースで勝てたのが素直にうれしかったのですが、前半がぜんぜん走れず、つらかった思い出の方が多いですね」

ハセツネはいろんなことを私に 教えてくれたレース

他にハセツネで忘れられない思い出はありますか?

「初めて出た2015年、月夜見でおにぎりを食べていたらトップを奪われた記憶は忘れられないですね。そこで給水した水をハイドレーションに入れ替えるのに手間取ったり、装備を整えながらおにぎりを食べていたら皆に「早く出発しな!」と言われて、エイドではゆっくりしていちゃダメなんだとそこで初めて知りました(笑)。

あと月夜見では年を重ねるごとに応援してくださる方が増えて、「頑張れ!」と声をかけてもらえるのがうれしいですね。とくにニューハレの芥田(晃志)さんに会えるのが楽しみで、芥田さんに給水してもらえると元気とパワーが出ます」

ちなみに、いつもレース展開を考えてスタートされていますか?

「そこまで細かく考えていません。ただ、絶対にフィニッシュする、何があってもフィニッシュまで行くんだという気持ちだけは常に持ち続けています。私はハセツネが大好きなので、とにかく好きなレースを走れることを楽しんでいます。好きこそ物の上手なれ、じゃないですが、好きなレースだからこそ頑張りたいですし、絶対にやめたくないし、誰よりも満足してフィニッシュしたいと願っています」

コース上で山場となる場所はありますか?

「浅間峠を越えれば気分が楽になりますが、あそこまでが鬼のように長く、いつ走ってもきつく感じますね。私は常に水と食料を多めに持って行くので、序盤は荷物が重いことが影響しているかもしれません。月夜見でも水分は1ℓ以上余ることが多いです。削ればいいのですが、何かあった時のことを考えると、水と補給食は削れなくて。やはり71㎞という長い距離の中で何が起こるか分からない恐さがあって、山でのあらゆる『万が一』に備え、自分だけでなく他の選手のケガや病気にも対応できるファーストエイドキットをはじめ、レースなら必要ないよというものまでしっかり携行しています。いつも御岳山あたりですごくお腹が空くので、固形物もたくさん持って行きます。

それが安心感につながって全力を出しきれているのか、その重さが後半のペースダウンにつながっているか……。でも、それが自分のスタイルだと思っています。しっかりとした荷物を持って山に入るというのはハセツネで教えてもらったことですし、山でケガをした時に持っていて良かったと思えたことも多々あります」

なるほど。いろんな意味でハセツネは髙村さんにとって特別なわけですね。
最後に、今年のハセツネへの意気込みを聞かせてください。

「勝ちたいと思って勝てるレースでないことは充分に分かっているので、まずは当日の体調を整えることに専念したいと思います。2年間、あのタフなコースを走っていない不安はありますが、何としても完走を目指すのと、連続して果たせている10時間切りの記録はキープしたいと思っています。結果として勝利がついてきたらうれしいですし、フィニッシュ後に笑顔になれて、レースを心から楽しめたなと思えれば私としては大満足です」

PROFILE

髙村 貴子
TAKAKO TAKAMURA

 

1993年1月、石川県生まれ。
2012年に旭川医科大学に入学し、2013年からトレイルラン、スカイランニングを開始。ハセツネ初参戦は2015年で3位。2016〜2018年は女子の部で3連覇を果たしている。スカイランニングの世界では、2016年にユース日本代表として世界選手権で準優勝するなど、世界の舞台でも結果を残している。


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